この記事の要約
- 遺産分割とは、亡くなった方の遺産について、相続人のうち誰が、どの財産を、どのように受け継ぐかを具体的に決めることです。
- 相続人全員での話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用できます。
- 遺産分割調停の申立費用は、被相続人1人につき収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便料が基本です。このほか、戸籍などの資料取得費や、専門家に依頼する場合の費用がかかることがあります。
- きょうだい間の相続では、不動産の分け方や評価だけでなく、親の介護、過去の援助、家族の中での負担感が重なり、話し合いが難しくなることがあります。
- 相続争いを減らすには、親が元気なうちに財産を整理し、遺言書の作成や家族への意思の伝え方を検討しておくことが大切です。
親が亡くなり、きょうだいで遺産について話し始めた。
最初は、実家をどうするか、預貯金をどのように分けるかという話だけのはずでした。
ところが、話を進めるうちに、
「父の通院や世話をしてきたのは自分だ」
「兄は実家の近くに住んでいただけではないか」
「弟は親から住宅資金の援助を受けていた」
「自分だけが家族の中で我慢してきた」
と、これまでの親子関係やきょうだい関係まで持ち出されるようになりました。
話し合いがまとまらず、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てれば、裁判所が早く分け方を決めてくれるのではないか。
そう考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、遺産分割調停は、裁判所がすぐに「正しい分け方」を決めてくれる手続きではありません。
相続人や遺産の範囲を確認し、それぞれの希望や法律上の主張を整理しながら、合意できる分け方を探していく手続きです。
この記事では、
- そもそも遺産分割とは何か
- どのような場合に遺産分割調停になるのか
- 調停にはどのような費用がかかるのか
- きょうだい間の遺産分割が難しくなる理由
- 相続争いを減らすためにできること
を、兄弟間の事例を交えながら解説します。
目次
1.そもそも遺産分割とは
遺産分割とは、誰がどの財産を受け継ぐかを決めること
遺産分割とは、亡くなった方が残した遺産について、相続人のうち誰が、どの財産を、どのように受け継ぐかを具体的に決めることです。
たとえば、遺産に次のような財産があったとします。
- 実家の土地と建物
- 預貯金
- 株式
- 自動車
- 貸付金
- その他の動産
これらについて、
- 長男が実家を相続する
- 預貯金は長男と次男で分ける
- 株式は売却して代金を分ける
など、具体的な取得者や分け方を決めていきます。
法定相続分どおりに財産を分けなくてもよい
民法には、相続人の組み合わせに応じた法定相続分が定められています。
ただし、法定相続分は、それぞれの財産を必ずその割合で細かく分けなければならないという意味ではありません。
相続人全員が合意すれば、
- 一人が不動産を取得する
- 別の相続人が預貯金を多く取得する
- 不動産を取得する人が、ほかの相続人へ代償金を支払う
といった分け方もできます。
大切なのは、原則として相続人全員が参加し、全員が合意することです。
一人でも合意しない相続人がいる場合、遺産分割協議は成立しません。
遺言書がある場合は、まず内容を確認する
亡くなった方が遺言書を残している場合は、原則として、まず遺言書の内容を確認します。
遺言書がある場合は、原則としてその内容が優先されます。遺言書によって遺産全部の取得者や取得内容が具体的に決められていれば、通常、その財産について相続人全員で遺産分割協議をする必要はありません。
一方で、遺言書があっても、次のような場合には遺産分割の問題が残ることがあります。
- 遺言書に記載されていない財産が見つかった
- 遺言書では一部の財産についてしか取得者が指定されていない
- 相続分の割合だけが示され、具体的な財産の分け方が決められていない
- 遺言書の内容だけでは、どの財産を誰が取得するのか明確でない
また、遺言書の有効性に争いがある場合や、遺留分が問題となる場合は、遺産分割調停とは別の話し合いや法的手続きが必要になることがあります。
したがって、
遺言書があるから必ず遺産分割調停にならない
とも、
遺言書があっても通常どおり遺産分割調停を行う
とも、一律にはいえません。
まずは遺言書の内容と、遺産分割の対象として残っている財産があるかを確認する必要があります。
遺言書があれば、必ず相続争いを防げるわけではありません。
それでも、亡くなった方の意思を示し、相続人が亡くなった方の考えを推測しながら一から分け方を決めなければならない場面を減らす手段にはなります。
2.どのような場合に遺産分割調停になるのか
相続人全員の話し合いがまとまらない場合に利用する
相続人同士で遺産分割について合意できない場合、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てることができます。
遺産分割調停は、裁判のように直ちに勝ち負けを決める手続きではありません。
裁判官と調停委員で構成される調停委員会が、当事者それぞれから事情や希望を聞き、話し合いによる合意を目指します。
相続人間で話し合いがつかず、遺産分割調停が利用されるのは、たとえば次のような場合です。
- 実家を残したい人と、売却したい人がいる
- 不動産の評価額について意見が合わない
- 相続財産の全体像が分からない
- 一部の相続人が財産に関する資料を開示しない
- 生前贈与を受けた相続人がいる
- 親の介護をした相続人が、多く取得したいと考えている
- 一部の相続人と連絡が取れない
- 相続人同士で直接話すと感情的な対立になる
- それぞれが希望する分け方に大きな隔たりがある
遺産分割調停で裁判所が行うこと
遺産分割調停では、通常、裁判官と調停委員で構成される調停委員会が、当事者それぞれから事情や希望を聞きます。
同じ部屋で直接言い争うのではなく、双方が別々に話を聞かれる形で進むことが一般的です。
調停委員会は、
- 相続人は誰か
- 遺産には何があるか
- 遺産分割の対象となる財産は何か
- 財産の評価をどう考えるか
- 各相続人はどのような分け方を希望しているか
- 特別受益や寄与分などの主張があるか
- 合意できる分け方があるか
などを整理しながら、話し合いを進めます。
ただし、調停委員が一方の相続人の代理人として交渉してくれるわけではありません。
また、一方の希望をそのまま相手に受け入れさせる手続きでもありません。
使途不明金、財産の無断処分、遺言書の有効性など、遺産分割調停だけでは確定できず、別の訴訟などが必要になる問題もあります。
遺産分割をめぐる問題のすべてが、一つの調停の中で解決するとは限らない点にも注意が必要です。
調停が成立しない場合は審判へ移る
話し合いがまとまり、相続人全員が合意すれば、調停成立となります。
一方、話し合いがまとまらず調停が不成立になった場合は、遺産分割事件については、原則として新たな申立てをしなくても審判手続へ移ります。
審判では、裁判官が、当事者から提出された資料や主張、財産の内容などを踏まえて、遺産の分割方法を判断します。
つまり、遺産分割調停は、
申し立てれば裁判所がすぐに答えを出してくれる手続き
ではなく、
裁判所の関与のもとで、相続人同士が合意できる分け方を探す手続き
です。
3.遺産分割調停にかかる費用
裁判所へ納める基本的な費用
遺産分割調停の申立てに必要な基本費用は、次のとおりです。
- 被相続人1人につき収入印紙1,200円分
- 連絡用の郵便料
郵便料の金額や内訳は、申立先の家庭裁判所や当事者の人数などによって異なります。
申立て前に、管轄の家庭裁判所の案内を確認する必要があります。
たとえば、父親の遺産について調停を申し立てる場合は、原則として被相続人1人分の収入印紙1,200円が必要です。
ただし、父親より前の相続が未解決のまま残っているなど、複数の被相続人に関する遺産分割が含まれる場合は、申立ての内容や費用が変わることがあります。
戸籍や財産資料を取得する費用
調停を申し立てる際には、一般に次のような書類や資料が必要になります。
- 申立書
- 事情説明書
- 進行に関する照会回答書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍
- 相続人の戸籍
- 相続人の住所を確認する書類
- 不動産の登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 預貯金や有価証券に関する資料
- 遺産目録
- 相続関係図
必要となる書類は、相続人や財産の内容、申立先の家庭裁判所によって異なります。
戸籍の一部を申立て前に入手できない場合には、申立て後の追加提出が認められることもあります。また、審理のために追加書類の提出を求められる場合もあります。
そのため、収入印紙や郵便料とは別に、戸籍や証明書などの取得費用がかかります。
相続人が多い場合や、何世代にもわたって相続が発生している場合は、必要な戸籍の数が増え、調査にも時間がかかることがあります。
遺言書がある場合
有効な遺言書によって遺産全部の取得者や取得内容が具体的に決められている場合は、原則として、その財産について遺産分割をする必要はありません。
一方で、
- 遺言書に記載されていない財産がある
- 遺言書では一部の財産しか指定されていない
- 相続分の割合だけが示され、具体的な分け方が決まっていない
など、遺産分割の対象として残る財産がある場合には、遺言書の内容を確認する必要があります。
そのため、個別の事情によっては、家庭裁判所から遺言書の写しなどの提出を求められることがあります。
ただし、遺言書がある場合のすべてについて、遺産分割調停が必要になるわけではありません。
まず、遺言書の内容と、遺産分割の対象として残る財産があるかを確認することが大切です。
不動産などの評価にかかる費用
遺産に不動産が含まれる場合、どの金額を基準に分けるかが問題になることがあります。
不動産には、
- 固定資産評価額
- 相続税評価額
- 不動産会社による査定額
- 実際に売却できると見込まれる価格
- 不動産鑑定士による鑑定評価額
など、目的や確認方法によって異なる金額があります。
当事者間で評価額に合意できれば、その金額を基準に話し合えます。
一方、評価について大きな争いがあり、正式な不動産鑑定が必要になれば、鑑定費用が発生する場合があります。
専門家へ依頼する場合の費用
遺産分割調停では、事情に応じて次のような専門家へ相談することがあります。
弁護士
- 相続人間の代理交渉
- 調停や審判への代理出席
- 法律上の主張や証拠の整理
- 紛争性が高い事案への対応
司法書士
- 戸籍や不動産の確認
- 相続関係の整理
- 裁判所へ提出する書類の作成
- 調停成立後の相続登記
- 遺産分割協議書や登記手続きに関する相談
司法書士は、裁判所提出書類の作成を支援できますが、遺産分割調停で当事者の代理人として相手方と交渉したり、家庭裁判所へ代理出席したりすることはできません。
代理交渉や調停への代理出席が必要な場合は、弁護士への相談を検討します。
税理士
- 相続税申告の要否
- 財産の税務上の評価
- 相続税や贈与税に関する確認
調停の申立て自体に必要な裁判所費用は比較的限定されています。
しかし、相続人や財産の調査、不動産の評価、専門家への依頼が必要になると、全体の費用は事案によって大きく変わります。
4.事例|兄弟間で遺産分割調停になったケース
ここからは、兄弟間で遺産分割協議がまとまらず、調停になった事例を見てみましょう。
※以下は、個人が特定されないように構成した一般的な架空事例です。実際の事案では、相続人、財産、介護の状況、遺言書の有無などにより法的な判断は異なります。
家族と遺産の状況
父親が亡くなり、相続人は長男と次男の2人でした。
母親はすでに亡くなっています。
父親の主な遺産は、次のとおりです。
- 父親が一人で暮らしていた実家の土地と建物
- 預貯金1,500万円
- その他、少額の株式
長男は実家の近くに住み、父親の通院の付き添い、買い物、入退院の手続きなどを担っていました。
次男は遠方に住んでおり、仕事や家庭の事情もあって、父親の日常的な支援にはあまり関わっていませんでした。
父親は遺言書を残していませんでした。
長男の希望
長男は、実家を自分が相続したいと考えていました。
父親の近くで長年支えてきたことに加え、実家を売却せず、今後も維持したいという思いがあったためです。
また長男は、
「自分が父の世話をしてきたのだから、その分も遺産分割で考慮してほしい」
と考えていました。
次男の希望
次男は、実家を売却し、その代金と預貯金を法定相続分に沿って2分の1ずつ分けることを希望しました。
次男には実家へ戻る予定がなく、空き家として維持するよりも、売却した方が合理的だと考えていました。
また、
「兄が父の近くに住み、手伝っていたことには感謝している。しかし、それと相続分は別の問題ではないか」
という意見でした。
話し合いがまとまらず調停へ
長男は実家の取得を希望しましたが、次男へ支払う代償金の金額について折り合いがつきませんでした。
不動産会社の査定額にも幅があり、実家をいくらと評価するかについて意見が分かれました。
さらに、長男は父親の介護や生活支援への負担を考慮するよう求めました。
次男は、長男がどの程度の負担をしてきたのか、具体的な資料がなければ判断できないと主張しました。
話し合いは次第に、
「自分ばかり父の世話をしてきた」
「兄は実家を自分のものにしたいだけではないか」
「弟は何もしていないのに半分を求めている」
「兄は昔から父に頼られて得をしてきた」
という言い争いになりました。
当事者同士での話し合いが難しくなり、長男が家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てました。
5.なぜ話し合いで解決することが難しかったのか
この兄弟の話し合いが難しくなった理由は、一つではありません。
法律、財産、暮らし、家族関係、感情の問題が、同じ話し合いの中に重なっていました。
理由1.実家を残すか売却するか、希望が異なっていた
長男にとって実家は、
- 父親を支えてきた場所
- 家族の思い出が残る場所
- 自分が守ってきたと感じる場所
でした。
一方、次男にとっては、
- 自分が住む予定のない不動産
- 維持費や固定資産税がかかる財産
- 売却して現金化した方が分けやすい財産
でした。
同じ実家を見ていても、二人にとっての捉え方は違います。
不動産は預貯金のように、そのまま同じ金額ずつ分けることが難しい財産です。
一人が不動産を取得する場合は、ほかの相続人へ代償金を支払う方法もあります。
ただし、不動産を取得する相続人に十分な資金がなければ、この方法を選ぶことも難しくなります。
理由2.不動産の評価額について合意できなかった
実家を長男が取得し、次男へ代償金を支払うためには、実家の価値をいくらと見るかを決める必要があります。
ところが、不動産には一つだけの絶対的な価格があるわけではありません。
長男は、建物が古いことや修繕費が必要なことを理由に、低い査定額を基準にしたいと考えました。
次男は、立地や周辺の取引事例を踏まえ、より高い金額で評価すべきだと考えました。
評価額が1,000万円違えば、兄弟それぞれの取得額にも大きな影響が生じます。
そのため、不動産の評価は、遺産分割が長引く原因の一つになります。
理由3.親を支えてきた負担を、どのように扱うかが違った
長男には、
「父の生活を支え、病院に付き添い、入院の手続きをし、何年も時間を使ってきた」
という思いがあります。
それは、単なる相続分の問題ではなく、
「自分がしてきたことを、弟にも分かってほしい」
という気持ちでもありました。
一方で次男は、
「兄が父の近くに住んでいたため、自然に担っていた部分もあるのではないか」
と考えていました。
相続では、被相続人の事業を手伝ったり、財産を提供したり、療養看護を行ったりするなどして、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした共同相続人について、「寄与分」が問題になることがあります。
ただし、親の介護や身の回りの世話をしたからといって、必ず寄与分が認められるわけではありません。
親子として通常期待される範囲を超えた特別な貢献があったか、その貢献によって親の財産が維持または増加したといえるかなど、具体的な事情を確認する必要があります。
介護の期間、内容、頻度、親の状態、介護サービスの利用状況、費用負担などが検討材料になることがあります。
そのため、
「自分が介護をしたから、当然に多く相続できる」
とも、
「家族の介護は相続に一切関係がない」
とも、一律にはいえません。
理由4.法律上の公平と、本人が感じる公平が一致しなかった
次男が考える公平は、
同じ父親の子どもなのだから、2分の1ずつ分けること
でした。
長男が考える公平は、
父親を支えてきた時間や負担も含めて分けること
でした。
「平等に分ける」という言葉は、一見すると分かりやすいものです。
しかし、同じ割合で分けることと、それぞれが納得できることは、必ずしも一致しません。
長男にとっては、2分の1ずつの分割では、自分がしてきたことを「なかったこと」にされたように感じられます。
次男にとっては、長男の感情を理由に自分の相続分が減ることには納得できません。
ここでは、法律上の相続分と、家族の中で積み重なった負担感や不公平感が重なっています。
理由5.遺産分割の場で、過去の兄弟関係まで解決しようとした
遺産分割の話し合いをきっかけに、それまで言えなかった不満が表面化することがあります。
- 親は兄ばかりを頼りにしていた
- 弟は家族のことから逃げてきた
- 兄は昔から親に優遇されていた
- 自分は家族の中で大切にされなかった
- 困ったときだけ自分に連絡が来た
こうした思いは、相続が始まって初めて生じたものとは限りません。
何十年もの親子関係、きょうだい関係の中で積み重なってきたものが、遺産の分け方をめぐって表に出ることがあります。
しかし、家庭裁判所の遺産分割調停で整理できる法律上の問題と、過去の家族関係への納得は、同じ問題ではありません。
遺産分割を考えるときは、少なくとも次の四つを分けてみる必要があります。
法律上確認すること
- 相続人は誰か
- 遺言書はあるか
- 法定相続分はどうなるか
- 特別受益や寄与分の問題があるか
- 遺産分割調停で扱える問題か、別の手続きが必要か
財産について確認すること
- 遺産には何があるか
- 負債はないか
- 不動産をどのように評価するか
- 生前に処分された財産はないか
- 誰がどの資料を持っているか
家族関係として残っていること
- 誰が親を支えてきたか
- 役割や負担に偏りがなかったか
- 生前の援助に差がなかったか
- きょうだい間に以前から対立がなかったか
感情として整理すること
- 分かってほしかったこと
- 感謝してほしかったこと
- 不公平だと感じていること
- 今回の遺産分割で本当に求めていること
法律上の問題と感情の問題は、切り離せばよいというものではありません。
実際の話し合いでは、互いに影響しています。
ただし、一つの主張の中にすべてを混ぜたままでは、何を法的に確認し、何を家族の問題として扱うべきかが見えにくくなります。
6.相続争いを防ぐためにできること
相続争いを防ぐために必要なのは、
「家族なのだから仲良く話し合いましょう」
という精神論だけではありません。
親が元気なうちに現実的な情報を整理し、意思を伝え、相続人側も記録を残しておくことが大切です。
親が元気なうちにできること
1.財産と負債を整理する
まず、どのような財産と負債があるかを整理します。
- 不動産
- 預貯金
- 株式、投資信託
- 生命保険
- 貸金庫
- 借入金
- 保証債務
- 貸付金
- デジタル資産
財産の内容が分からないと、相続人は調査から始めなければなりません。
通帳や権利証だけでなく、金融機関名、支店名、不動産の所在地、契約の有無などが分かる一覧をつくっておくと、相続後の負担を減らせます。
2.不動産を今後どうしたいか考える
実家や賃貸不動産がある場合は、
- 誰かに住んでほしいのか
- 売却してほしいのか
- 特定の相続人に引き継いでほしいのか
- 維持費や管理をどうするのか
- 取得する人が、ほかの相続人へ代償金を払えるのか
を考えておく必要があります。
不動産を一人に相続させたいと希望しても、ほかの財産が少なければ、相続人間の調整が難しくなることがあります。
希望だけでなく、実現可能性も含めて検討することが大切です。
3.生前贈与や援助の記録を残す
特定の子どもへ、
- 住宅購入資金
- 事業資金
- 多額の学費
- 結婚資金
- 定期的な金銭援助
をしている場合は、いつ、誰に、何の目的で、いくら渡したのかを記録しておきます。
親にとっては「少し援助しただけ」という認識でも、相続人同士では大きな不公平感につながることがあります。
贈与契約書、振込記録、通帳、メモなどを残しておくことで、相続後の事実確認がしやすくなります。
ただし、生前の援助がすべて法律上の特別受益として扱われるわけではありません。
どのような援助が特別受益に当たるかは、目的、金額、生活状況などを踏まえ、個別に確認する必要があります。
4.遺言書の作成を検討する
遺言書によって、
- どの財産を誰に相続させたいか
- 不動産を誰に引き継いでほしいか
- 相続人以外に財産を残したいか
- 遺言執行者を誰にするか
などを示すことができます。
遺言書があれば、相続人が一から分け方を考えなければならない場面を減らせることがあります。
ただし、遺言書があれば、必ず争いを防げるわけではありません。
遺言書の形式に不備がある、内容が不明確である、遺留分の問題がある、相続人が遺言の内容に納得しない、といった場合には争いが生じる可能性があります。
遺言書は、
家族に一方的な結論を押しつけるもの
ではなく、
自分の意思を明らかにし、亡くなったあとの手続きや話し合いの出発点をつくるもの
として考えるとよいでしょう。
5.分け方だけでなく、理由も整理する
たとえば、
「長男に実家を相続させる」
という結論だけが残されていると、ほかの相続人は、
「なぜ兄だけなのか」
と感じることがあります。
実家を任せたい理由や、ほかの相続人への考えを、付言事項や手紙などで伝える方法もあります。
ただし、付言事項や手紙に書いた内容のすべてに、遺言本文と同じ法的効力が生じるわけではありません。
また、どのような内容を、どの方法で伝えるかによっては、かえって誤解や対立を招くこともあります。
家族の関係を踏まえ、専門家と相談しながら考えることが大切です。
相続人側ができること
1.介護や立替費用の記録を残す
親のために費用を立て替えた場合は、
- 領収書
- 振込記録
- 通帳
- 介護サービスの利用明細
- 医療費の記録
- 日付と内容を記したメモ
を残しておきます。
記録がないまま、
「自分はこれだけ負担した」
と主張しても、ほかの相続人や裁判所が具体的な内容を確認することは難しくなります。
介護や生活支援をした記録を残すことと、それによって寄与分が認められることは同じではありません。
それでも、事実関係を確認するための資料を残しておくことは重要です。
2.希望と法律上の主張を分ける
「実家を残したい」という希望と、「自分が実家を取得する法的な根拠がある」という主張は、同じではありません。
また、「介護をしたことを分かってほしい」という気持ちと、「寄与分が認められる」という法律上の結論も、同じではありません。
自分が求めているのは、
- 財産なのか
- 金銭的な調整なのか
- 感謝や理解なのか
- 親を支えてきた事実を認めてほしいのか
を分けて考えると、話し合いの焦点が見えやすくなります。
3.対立が深くなる前に相談する
相続人同士で話し合えるうちに、相続人や財産の範囲、選択できる分け方を専門家へ確認しておくと、誤解を減らせることがあります。
一方で、
- 相手が財産に関する資料を開示しない
- 一方的な要求が続いている
- 直接話すことが難しい
- 法律上の主張が対立している
- 代理交渉が必要である
という場合は、早めに弁護士への相談を検討します。
7.遺産分割について専門家へ相談する目安
相続の相談先は、何を確認したいかによって異なります。
司法書士への相談が考えられる場合
- 相続人を戸籍から確認したい
- 不動産の名義を確認したい
- 遺産分割協議後の相続登記を依頼したい
- 相続関係や必要書類を整理したい
- 家庭裁判所へ提出する書類の作成を依頼したい
- 遺言書作成について相談したい
- どの専門家へ相談すべきか整理したい
なお、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されています。
相続により不動産を取得したことを知った相続人には、原則として、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。
さらに、遺産分割が成立し、それによって不動産を取得した相続人には、遺産分割成立日から3年以内に、その内容に基づく登記を申請する義務があります。
弁護士への相談が考えられる場合
- 相続人同士の対立が強い
- 相手方との代理交渉を依頼したい
- 調停へ代理出席してほしい
- 寄与分や特別受益について争いがある
- 遺言書の有効性について争いがある
- 使途不明金や財産の無断処分が問題になっている
- 遺産の範囲自体に争いがある
- 審判や訴訟になる可能性がある
税理士への相談が考えられる場合
- 相続税申告が必要か確認したい
- 相続税の計算を依頼したい
- 不動産や非上場株式の税務上の評価を確認したい
- 生前贈与と相続税の関係を確認したい
問題が複数の領域にまたがる場合は、一人の専門家だけですべてを判断しようとせず、必要に応じて司法書士、弁護士、税理士などに連携してもらうことも大切です。
8.まとめ|遺産分割では、法律と家族の思いを分けて整理する
遺産分割とは、亡くなった方の遺産について、誰がどの財産を受け継ぐかを具体的に決めることです。
相続人全員での話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用できます。
ただし、調停は、裁判所がすぐに正解を決めてくれる手続きではありません。
- 相続人を確認する
- 遺産の範囲を確認する
- 不動産などを評価する
- 法律上の主張を整理する
- 各相続人の希望を確認する
- 合意できる分け方を探す
という過程が必要です。
きょうだい間の遺産分割では、財産の金額だけでなく、
「自分ばかり親を支えてきた」
「あの人だけ親から援助を受けていた」
「自分は家族の中で大切にされなかった」
という気持ちが重なることがあります。
法律上の相続分と、これまでの家族関係への納得は、同じ問題ではありません。
一つの話し合いの中に混ぜたままにせず、
- 法律上確認すること
- 財産について確認すること
- 家族関係として残っていること
- 感情として整理すること
を分けて考えることが、次の一歩になります。
また、親が元気なうちに財産の内容や自分の意思を整理し、遺言書として残しておくことで、亡くなったあとに相続人が迷う場面を減らせることがあります。
遺言書があれば、すべての争いを防げるわけではありません。
それでも、親の意思を明確にし、亡くなったあとの手続きや家族の話し合いの出発点をつくる一つの方法になります。
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9.よくある質問
Q1.遺産分割調停を申し立てれば、裁判所が分け方を決めてくれますか
遺産分割調停は、まず相続人同士の話し合いによる合意を目指す手続きです。
調停委員会が双方の事情や希望を聞き、解決案を検討しますが、一方の意見を強制的に受け入れさせる手続きではありません。
話し合いがまとまらず調停が不成立になった場合は、遺産分割事件については原則として自動的に審判へ移り、裁判官が提出資料や事情を踏まえて分割方法を判断します。
Q2.遺産分割調停には、どのくらいの期間がかかりますか
必要となる期間は、相続人の人数、財産の種類、争点、資料のそろい方、当事者の意見の隔たりなどによって異なります。
相続人や遺産の範囲を確認する必要がある、不動産評価に争いがある、特別受益や寄与分が問題になる、当事者が出席しないといった事情があれば、長期化する可能性があります。
そのため、個別の事案について、一律に何か月で終わるとはいえません。
Q3.相手が調停に出席しない場合はどうなりますか
相手方が一度出席しなかっただけで、直ちに相手の意見を聞かずに分割方法が決まるわけではありません。
裁判所から再度連絡が行われることもあります。
話し合いによる解決が難しく、調停が不成立となった場合は、遺産分割事件については原則として審判へ移行します。
相手方が出席しない事情や、必要な対応については、個別に裁判所や専門家へ確認してください。
Q4.親の介護をした人は、相続分を多くもらえますか
親の介護や生活支援をしたからといって、当然に相続分が増えるわけではありません。
具体的な支援内容が、親子として通常期待される範囲を超えた特別な貢献といえるか、親の財産の維持または増加に寄与したといえるかなどを確認する必要があります。
寄与分が認められるかどうかは、介護の期間、内容、親の状態、費用負担、介護サービスの利用状況など、個別の事情によって異なります。
Q5.遺言書があれば、遺産分割調停は不要になりますか
遺言書によって遺産全部の取得者や取得内容が具体的に決められ、その内容どおりに手続きできる場合は、通常、その財産について相続人全員で遺産分割協議をする必要はありません。
一方で、
- 遺言書に記載されていない財産がある
- 一部の財産についてしか取得者が指定されていない
- 相続分の割合だけが示され、具体的な分け方が決まっていない
などの場合には、遺言書があっても遺産分割の問題が残ることがあります。
また、遺言書の有効性や遺留分が問題になる場合は、遺産分割調停とは別の手続きが必要になることがあります。
したがって、遺言書がある場合は、まずその内容を確認することが大切です。
ご相談について
相続では、法律上の問題、財産の確認、家族関係、これまでの気持ちが重なり、何から整理すればよいか分からなくなることがあります。
小高司法書士事務所では、
- 相続人や相続財産の確認
- 不動産の名義や相続登記
- 遺産分割に必要な書類の整理
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などについてご相談をお受けしています。
相続人間の代理交渉や、調停への代理出席が必要な場合は、弁護士への相談をご案内します。
法律の問題だけでなく、家族関係や気持ち、今後の暮らしまで混ざり、どこから考えればよいか分からない方は、「はじめての相談」で一緒に整理することもできます。
この記事を書いた人
司法書士・心理カウンセラー こたか真子
滋賀県大津市 小高司法書士事務所代表。
1999年に司法書士試験に合格し、2004年に独立開業。
相続、遺言、不動産登記などの法律実務に加え、心理カウンセラーとして、手続きの背景にある家族関係や気持ち、これからの人生についての相談にも対応しています。
法律の問題と気持ちを一緒に整理し、相談者が安心して次の一歩を考えられるよう支援しています。
人生に寄り添う、かかりつけカウンセラー&司法書士
参考情報・ガイドライン
裁判所: 遺産分割調停
裁判所: 相続・遺産分割
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政府広報オンライン: 知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐために
e-Gov法令検索: 民法
閲覧日:2026年7月17日
*調停申立の際は、申立先の家庭裁判所で確認してください
免責・注意事項
この記事は、情報確認日時点の法令および公表資料をもとに、遺産分割と遺産分割調停に関する一般的な情報をお伝えするものです。
実際に必要となる手続きや法的判断は、相続人、財産、遺言書、生前贈与、介護、家族関係などによって異なります。
個別の事案については、司法書士、弁護士、税理士など、相談内容に応じた専門家へご相談ください。




