この記事の要約
- 遺言制度を見直す法律は、2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。
- パソコンなどを利用して作成できる新しい「保管証書遺言」は、2026年7月現在、まだ利用できません。
- 保管証書遺言は、手書きの負担を軽減しながら、法務局で本人の意思を確認する新しい遺言方式です。
- 自筆証書遺言などの押印を必須としない改正も、まだ施行されていません。
- 今、遺言書を作る場合は、現行の自筆証書遺言や公正証書遺言などを利用します。
- 制度が変わっても、「誰に、何を、なぜ残したいのか」を考える必要がなくなるわけではありません。
「遺言書が、パソコンで作れるようになるらしい」
「自筆証書遺言には、もう印鑑を押さなくてもよくなった」
最近、このようなニュースを目にした方もいるかもしれません。
遺言書の作成を考えている方や、親に遺言書を残してもらった方がよいのではないかと考えている方にとっては、気になる制度改正だと思います。
では、新しい制度は、もう使えるのでしょうか。
結論からお伝えすると、遺言制度を見直す法律は2026年6月に成立・公布されましたが、2026年7月現在、新しく創設される制度の多くは、まだ始まっていません。
そのため、今、遺言書を作成する場合は、これまでどおり現行の制度に従う必要があります。
この記事では、
- 遺言制度の何が変わるのか
- 「デジタル遺言」と呼ばれているものは、どのような制度なのか
- なぜ、新しい遺言制度が設けられたのか
- 自筆証書遺言の押印は、いつから不要になるのか
- 今、遺言書を作りたい場合はどうすればよいのか
を、現在利用できる制度と、まだ利用できない制度に分けて説明します。
目次
1.遺言書の新しい制度は、もう利用できるのでしょうか
2026年6月、成年後見制度と遺言制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」が成立しました。
遺言制度については、主に次の変更が予定されています。
- 書面や電子データを利用して作成する「保管証書遺言」の創設
- 自筆証書遺言などの押印の任意化
- 死亡の危急に迫った場合の遺言に、録音・録画を利用する方式の追加
法律は2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されています。
ただし、法律が成立した日から、すべての制度が直ちに利用できるわけではありません。
今回の改正では、変更内容によって施行時期が異なります。
| 主な変更 | 施行時期 |
|---|---|
| 自筆証書遺言などの押印の任意化 | 2026年6月24日から1年以内の、政令で定める日 |
| 保管証書遺言の創設 | 2026年6月24日から3年以内の、政令で定める日 |
| 危急時の遺言に録音・録画を利用する方式 | 2026年6月24日から1年以内の、政令で定める日 |
2026年7月18日現在、法務省から公表されているのは、この施行時期の範囲です。具体的な施行日は、今後、政令によって定められます。
法律は成立したけれど、新しい制度はまだ始まっていない
というのが、現在の状況です。
2.「デジタル遺言」と呼ばれている保管証書遺言とは
今回の改正で特に注目されているのが、新しく創設される「保管証書遺言」です。
ニュースなどでは「デジタル遺言」と呼ばれることがありますが、「デジタル遺言」は法律上の正式名称ではありません。
正式には、保管証書遺言といいます。
なぜ、保管証書遺言が取り入れられたのでしょうか
現在の自筆証書遺言は、自分一人で作成でき、特別な費用もかからないという利用しやすさがあります。
一方で、原則として、遺言書の本文、日付、氏名を本人が手書きしなければなりません。
短い内容であれば、それほど負担に感じないかもしれません。
しかし、財産の種類が多い場合や、誰に何を残すのかを詳しく書く場合には、遺言書が長くなることがあります。
高齢になり、手に力が入りにくくなった方や、病気や障害などによって文字を書くことが難しい方にとっては、全文を手書きすること自体が大きな負担になります。
パソコンやスマートフォンが日常的に使われるようになっても、現在の自筆証書遺言では、パソコンで作成した本文を印刷しただけでは、法律上の方式を満たしません。
そこで、全文を手書きしなくても作成できる、新しい遺言方式が検討されました。
ただし、手書きを不要にするだけでは、
- 本当に本人が作成したものなのか
- 誰かに内容を書き換えられていないか
- 本人が内容を理解し、自分の意思で作成したのか
という問題が残ります。
そのため、保管証書遺言では、パソコンなどを利用できるようにする一方で、法務局で本人確認を行い、本人が遺言の全文を口頭で述べ、証書を保管する仕組みが設けられます。
制度のポイント
保管証書遺言は、単に遺言書をデジタル化する制度ではありません。手書きの負担を軽くしながら、本人の意思による遺言であることを確認する仕組みです。
全文を手書きしなくても作成できる新しい方式
保管証書遺言では、遺言の内容を記載した書面や電子データを利用できるようになります。
たとえば、パソコンなどで文章を作成することが想定されています。
遺言の全文が紙に記載された証書だけでなく、電子データとして記録された証書も利用できる仕組みです。
手書きの負担が大きい方や、長い遺言内容を整理したい方にとっては、遺言書を作成する方法の選択肢が広がることになります。
パソコンやスマートフォンに保存するだけでは遺言になりません
ここで注意したいのは、パソコンやスマートフォンに遺言の文章を保存しておけば、それだけで法律上の遺言になるわけではないという点です。
保管証書遺言では、遺言者本人が、
- 遺言内容を記載または記録した証書を作成する
- 署名、または法務省令で定められる署名に代わる措置を行う
- 遺言書保管官の前で、証書に記載または記録された遺言の全文を口述する
- 法務局の制度によって証書を保管する
という手続きを行うことが予定されています。
法律上、保管証書遺言は、法務局で証書を保管しなければ効力を生じません。
パソコンで作成できる
=自宅でデータを保存すれば完成する
という制度ではありません。
本人が作成したものであることや、本人の意思による遺言であることを、法務局で確認する仕組みが組み込まれています。
具体的な手続きは、これから決まります
どのような電子データ形式を利用できるのか。
署名に代わる措置は何か。
申請はどのように行うのか。
手数料はいくらになるのか。
こうした具体的な内容は、今後定められる政令、法務省令や運用資料によって明らかになります。
現時点では、制度の骨格は決まっていますが、実際に利用するための詳細までは確定していません。
3.自筆証書遺言の押印は、まだ必要です
今回の改正では、自筆証書遺言などについて、押印を必須としないことが決まりました。
ただし、この変更もまだ施行されていません。
現在は、これまでどおり押印が必要です
2026年7月現在、自筆証書遺言を作成する場合は、遺言者本人が、
- 遺言書の全文
- 作成日付
- 氏名
を自書し、押印する必要があります。
改正法が成立したからといって、今すぐ印鑑を押さなくてもよくなったわけではありません。
押印を必須としないルールは、2026年6月24日から1年以内の、政令で定める日に施行されます。
具体的な施行日までは、これまでどおり押印して作成する必要があります。
注意点
押印を任意とする改正は成立していますが、まだ施行されていません。施行日までは、現行の方式に従ってください。
押印が不要になっても、本文の手書きは残ります
押印が任意になることと、自筆証書遺言の全文をパソコンで作成できるようになることは、別の話です。
改正後も、従来型の自筆証書遺言では、本文、日付、氏名を本人が自書するという基本的なルールは残ります。
変更されるのは、押印を必須とする部分です。
一方、財産目録については、現在の制度でも、パソコンで作成したものや、不動産の登記事項証明書、預金通帳のコピーなどを添付できます。
ただし、自書でない財産目録を添付する場合は、現行制度ではすべてのページに署名と押印が必要です。
4.そのほかの遺言制度の改正
今回の法律では、保管証書遺言の創設や自筆証書遺言の押印の任意化以外にも、遺言制度の見直しが行われます。
危急時の遺言に、音声と映像を利用する方式が加わります
死亡の危急に迫った人が行う特別な方式の遺言について、遺言をする状況を音声と映像で記録する方法が追加されます。
ただし、これは、元気なうちにスマートフォンで動画を撮影しておけば、その動画が遺言になるという制度ではありません。
死亡の危急に迫っているなど、法律で定められた特別な状況で利用される制度です。
証人の関与や記録方法など、法律で定められた要件を満たす必要があります。
普段から準備する自筆証書遺言や公正証書遺言とは、利用する場面が異なります。
秘密証書遺言や特別方式の遺言でも、押印要件が見直されます
押印要件の見直しは、自筆証書遺言だけではありません。
秘密証書遺言や、死亡の危急に迫った場合などに利用される特別方式の遺言についても、遺言者や証人などの押印要件が見直されます。
これらは利用する人が限られるため、この記事では詳しい方式の説明は省略します。
大切なのは、今回の改正が、遺言書を作成する際の形式的な負担を見直しながら、本人の意思を確認できる仕組みを整える方向で行われているという点です。
5.今、遺言書を作る場合に利用できる制度
新しい制度が始まるまで、遺言書を作れないわけではありません。
現在も、主に自筆証書遺言と公正証書遺言を利用できます。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者本人が作成する遺言書です。
原則として、本文、日付、氏名を本人が手書きし、押印します。
自分で作成できる一方で、
- 法律で定められた形式を満たしているか
- 誰にどの財産を渡すのかが明確か
- 財産の記載に漏れがないか
- 遺留分など、相続人の権利にどのような影響があるか
- 遺言内容を実際に実行できるか
といった点に注意が必要です。
現在の自筆証書遺言書保管制度
自分で作成した自筆証書遺言は、自宅で保管するだけでなく、法務局に預けることもできます。
これが、現在すでに利用できる「自筆証書遺言書保管制度」です。
法務局に預けることで、遺言書の紛失、破棄、隠匿、改ざんなどを防ぎやすくなります。
また、法務局に保管されている自筆証書遺言は、相続開始後の家庭裁判所による検認が不要です。
ただし、法務局が確認するのは、民法で定められた形式に適合しているかという外形的な部分です。
法務局では遺言内容の相談には応じておらず、保管された遺言書の有効性が保証されるわけでもありません。
現在の自筆証書遺言書保管制度と、将来始まる保管証書遺言は、別の制度です。
現在の制度は、自分で手書きした自筆証書遺言を法務局に預ける制度です。
新しい保管証書遺言は、全文を自書しなくても作成できる、新しい遺言方式そのものです。
この二つは、名前や保管場所が似ているため、混同しないよう注意が必要です。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言です。
自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらが適しているかは、年齢だけで決まるものではありません。
財産の内容、家族関係、遺言を残す理由、本人の健康状態などによって異なります。
新制度を待つことよりも、今の自分の状況に合う方法を選ぶことの方が重要な場合もあります。
6.遺言制度改正について、誤解しやすい5つのこと
ここまでの内容を、もう一度整理します。
1.パソコンで文章を作るだけでは遺言にならない
保管証書遺言には、法務局での本人確認、遺言全文の口述、証書の保管などが必要です。
2.保管証書遺言は、まだ利用できない
法律は成立していますが、具体的な施行日はまだ決まっていません。
3.自筆証書遺言には、現在も押印が必要
押印を必須としない改正は、まだ施行されていません。
4.法務局に預ければ、内容まで保証されるわけではない
現在の自筆証書遺言書保管制度では、形式面の外形的な確認は受けられますが、遺言内容の有効性が保証されるわけではありません。
5.新制度が始まるまで、遺言書を作れないわけではない
現在も、自筆証書遺言や公正証書遺言を作成できます。
7.遺言書を考えている人が、今できること
制度改正の内容が気になると、
新しい制度が始まってから考えよう
と思うかもしれません。
けれど、遺言書を作る準備は、書式を決めるところから始まるわけではありません。
まずは、自分の財産や家族の状況を確認するところから始められます。
財産の内容を確認する
たとえば、次のようなものを書き出してみます。
- 不動産
- 預貯金
- 株式、投資信託
- 生命保険
- 借入れ
- 貸しているお金
- デジタル資産
- 大切にしている品物
正確な金額まで分からなくても、何を所有しているかを確認するだけで、準備の入口になります。
誰に何を残したいのかを考える
法定相続分どおりに分けたいのか。
特定の不動産を特定の人に残したいのか。
介護や事業を担ってくれた人に、何らかの配慮をしたいのか。
家族以外の人や団体に財産を残したいのか。
遺言書の形式を決める前に、
誰に、何を、なぜ残したいのか
を整理することが大切です。
遺言書だけで解決できないことを確認する
家族が抱える問題のすべてを、遺言書で解決できるわけではありません。
たとえば、
- 今後、実家を誰が管理するのか
- 親の介護をどのように分担するのか
- 認知症になった後の財産管理をどうするのか
- 自分が亡くなるまでの生活費や住まいをどうするのか
- 家族に伝えておきたいことは何か
といった問題は、遺言書とは別に整理する必要があります。
遺言書に何を書くかを考えることは、自分の死後だけを考えることではありません。
今ある財産を、これから自分のためにどう使うのか。
どのような暮らしを続けたいのか。
誰に何を託したいのか。
これからの人生を考える入口にもなります。
まとめ|制度が変わっても、何を残したいかという問いは残ります
2026年6月、遺言制度を見直す法律が成立・公布されました。
将来は、パソコンなどを利用して作成できる保管証書遺言が始まり、自筆証書遺言などの押印も必須ではなくなります。
遺言書を作るときの負担は、今より軽くなるかもしれません。
ただし、2026年7月現在、新しい制度はまだ始まっていません。
今、遺言書を作成する場合は、現行の制度に従う必要があります。
そして、制度がどれだけ便利になっても、
- 誰に何を残したいのか
- なぜ、その人に残したいのか
- 家族にどのような負担を残したくないのか
- 自分の財産を、生きている間にどう使いたいのか
- 言葉にしておきたい思いはないか
という問いがなくなるわけではありません。
遺言書は、財産を分けるための書類です。
同時に、自分がこれまで築いてきたものを確認し、それを誰に、どのようにつないでいくのかを考える機会でもあります。
新制度を待つかどうかを決める前に、まずは自分の財産と、残したいものを整理してみる。
そこから始めてもよいのではないでしょうか。
よくある質問
Q1.パソコンで作った遺言書は、現在も無効ですか
現在の自筆証書遺言では、本文、日付、氏名を本人が自書する必要があります。
パソコンで作成した本文を印刷し、署名と押印をしただけでは、現行の自筆証書遺言の方式を満たしません。
ただし、財産目録については、一定の要件のもとでパソコン作成や、登記事項証明書、通帳のコピーなどを利用できます。
Q2.自筆証書遺言には、もう印鑑を押さなくてもよいですか
いいえ。
押印を必須としない改正法は成立していますが、まだ施行されていません。
具体的な施行日までは、これまでどおり押印が必要です。
Q3.新しい保管証書遺言は、いつから利用できますか
2026年6月24日から3年以内の、政令で定める日に施行されます。
2026年7月18日現在、具体的な施行日は公表されていません。
Q4.新制度が始まるまで、遺言書の作成を待った方がよいですか
一律には判断できません。
健康状態、家族関係、財産の内容、遺言書を作成する理由などによって異なります。
すでに遺言書を必要とする事情がある場合、新制度を待つことで準備が遅れる可能性もあります。現在利用できる方法を含めて検討することが大切です。
次回の記事
お盆に親と顔を合わせる機会があっても、いきなり「遺言書を書いてほしい」と切り出すのは難しいものです。
遺言書の話をする前に、これからどこで暮らしたいのか、実家を今後どうしたいのか、体調や介護について気になっていることはないか、大切にしているものは何か、という話から始める方法もあります。
次回は、「お盆の帰省で、親と話しておきたいこと」について整理します。
ご相談について
遺言書を作りたいと思っても、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらが合うのか、新制度を待った方がよいのか、誰にどの財産を残すのかなど、考えることが重なりやすいものです。
小高司法書士事務所では、
- 現在利用できる遺言方式の違いと選び方
- 遺言書に記載したい財産や内容の整理
- ご家族の状況や、遺言書以外に確認しておきたい準備
などについてご相談をお受けしています。
紛争性のあるご相談、税務上の個別判断など、司法書士の対応範囲を超える内容については、必要に応じて弁護士、税理士などの専門家をご案内します。
法律の問題だけでなく、家族関係や気持ち、今後の暮らしまで混ざり、どこから考えればよいか分からない方は、「はじめての相談」で一緒に整理することもできます。
この記事を書いた人
司法書士・心理カウンセラー こたか真子
滋賀県大津市を拠点に、人生の節目にある方の法律の問題と気持ちを一緒に整理し、これからの人生を選び直す一歩を支援しています。
相続、遺言、不動産登記などの法律実務に加え、心理カウンセラーとして、手続きの背景にある家族関係や気持ち、これからの人生についての相談にも対応しています。
人生に寄り添う、かかりつけカウンセラー&司法書士
参考情報・ガイドライン
法務省: 「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について
法務省: 民法等の一部を改正する法律案
参議院: 民法等の一部を改正する法律案(議案情報)
法務省: 民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案の補足説明
法務省: 自筆証書遺言書保管制度について
法務省: 自筆証書遺言に関するルールが変わります。
情報確認日・閲覧日:2026年7月18日
免責・注意事項
この記事は、2026年7月18日時点の法令および公表資料をもとに、遺言制度の改正に関する一般的な情報をお伝えするものです。
今後、政令、法務省令、運用資料などが公表されることにより、具体的な施行日や手続きの内容が明らかになる予定です。
実際に必要となる遺言方式や手続き、法的判断は、財産の内容、家族関係、健康状態、遺言の目的などによって異なります。
個別の事案については、司法書士、弁護士、税理士など、相談内容に応じた専門家へご相談ください。




