AIが法律書類を作る時代に、司法書士に求められる仕事とは?|相続登記義務化時代の専門家の価値
この記事の要約
- AI法律事務所が英国で勝訴:2026年6月、英Financial Times紙などが、AIを活用した英国の法律事務所「Garfield AI」が裁判前の書面作成を支援し、実際の裁判で勝訴した事例を報じました。
- 法律サービスへのアクセスが広がる可能性:未払い報酬7,000ポンドの回収を求めた事案で、相談者は約400ポンドの費用でAIを活用した書面準備の支援を受けたとされています。
- 相談者側にも変化が起きる:AIにより一般的な情報は手に入りやすくなりますが、「自分のケースにどう当てはめればよいのか」という個別判断の難しさは残ります。
- 相続登記義務化の影響:2024年4月から相続登記が義務化され、長年放置されていた不動産や、家族間の合意形成が必要な相続の相談が増えやすい状況になっています。
- AI時代の司法書士の価値:知識の提供だけでなく、事実と感情を分けて整理し、人と人との合意形成を支えることに、これからの専門家の役割があります。
英経済紙『Financial Times』の報道(2026年6月22日付)などによると、AIを活用した英国の法律事務所「Garfield AI」が、裁判前の書面作成を支援し、実際の裁判で勝訴した事例が紹介されました。
(参考:Financial Times – AI law firm wins UK court case for first time)
この裁判は、フリーランスのHRコンサルタントが未払い報酬7,000ポンドの回収を求めたものです。報道によれば、AIは催告状や訴訟に関する書面、陳述書、裁判資料の準備などを支援し、実際の法廷では人間の法廷弁護士が対応しました。
相談者が支払った費用は約400ポンドとされ、従来の法律サービスでは費用面から諦めざるを得なかったような小口の債権回収について、AIが司法へのアクセスを広げる可能性を示した事例ともいえます。
もちろん、英国と日本では法制度も資格制度も異なります。そのため、この事例をそのまま日本の司法書士業務に当てはめることはできません。
それでも、このニュースは一つの大きな問いを投げかけています。
AIが法律書類の作成を支援できるようになった時代に、人間の専門家には何が求められるのか。
私は、これからの時代、法律の専門家に求められる役割は、単なる「書類作成の代行」だけではなく、複雑な状況や人間関係を整理し、その人が次の一歩を選べるように支えることへと重心が移っていくと感じています。
1. AIに任せやすい定型業務は広がっていく
AIは、文章の整理、情報の分類、一般的な制度説明、定型的な書類のたたき台作成において、高い力を発揮します。
相続や遺言の分野でも、今後は次のような業務でAIの活用が進んでいくと考えられます。
AIが支援しやすい主な業務
- 必要書類のリストアップ:相続手続きに必要な書類の条件整理
- 相談前メモの作成:相談者の状況をヒアリングし、要点を整理する機能
- 制度の一般的な説明:法改正や手続きの流れについての概要説明
- よくある質問への対応:初期的な疑問への回答や、相談前の情報整理
- 文章のたたき台作成:案内文、説明文、確認事項の整理
AIは、もはや「便利なツール」にとどまらず、業務の一部に組み込まれるインフラになりつつあります。法律分野も、その流れの外側にはいられません。
ただし、ここで大切なのは、AIが得意なことと、人間の専門家が担うべきことを分けて考えることです。
2. AIの進化で、相談者側にも起きる変化
AIの普及は、司法書士の働き方だけでなく、ご相談に来られるお客様側にも変化をもたらします。
これまでは、相続登記、遺言、遺産分割、戸籍収集といった言葉を聞いても、どこから調べればよいのかわからない方が少なくありませんでした。
しかし今後は、インターネット検索だけではなく、AIを使って、相談前にある程度の情報を集めたり、自分の状況を整理したりする方が増えていくでしょう。
相談者が得られるメリット
- 相談前に、自分の状況を整理しやすくなる
- 専門用語の意味をあらかじめ理解しやすくなる
- 何を質問すればよいのかが見えやすくなる
- 専門家との限られた相談時間を、一般的な説明ではなく「自分の場合はどうなるのか」という具体的な検討に使いやすくなる
これは、お客様にとって大きなメリットです。
一方で、情報が手に入りやすくなるほど、新たな難しさも生まれます。
情報が増えることで生まれる難しさ
- AIの回答が、自分の家族構成や財産状況に本当に当てはまるのかわからない
- ネットやAIの説明だけで判断して、後から問題にならないか不安になる
- 得られた情報を、他の家族や親族にどう説明すればよいかわからない
- 法律上の問題と、家族間の感情の問題が混ざって、かえって整理できなくなる
情報が増えるほど、「知っていること」と「自分の現実に使えること」の間にある距離が見えやすくなります。
一般論としては正しい情報でも、その人の家族関係、財産の状況、過去の経緯、今後の暮らし方によって、必要な対応は変わります。
だからこそ、これからの専門家には、情報をただ伝えるだけでなく、その情報が目の前の相談者の現実に合っているのかを一緒に見極める役割が求められるのだと思います。
3. AIだけでは整理しにくい「相続の現場」
「AIが法律書類を作れるようになったら、司法書士の仕事はなくなるのではないか」
そのような問いが出てくるのは自然なことです。
けれど、相続の実務において本当に難しいのは、書類を作ることだけではありません。
実際の相続相談の現場では、法律上の問題の手前に、家族の歴史や感情が複雑に絡み合っていることが少なくありません。
相続の現場で起こりやすいこと
- 親が亡くなってから何年も経過し、名義変更、つまり相続登記が放置されている
- きょうだい間の関係がぎくしゃくしていて、遺産分割の話を切り出しにくい
- 思い入れのある実家を、残すのか、売却するのかで意見が分かれている
- 長年親の介護をしてきた親族が、法定相続分どおりの分け方に納得できない
- 相続人の一人と長年連絡を取っておらず、どのように話を進めればよいかわからない
これらの問題は、登記申請書を正しく作成するだけでは解決しません。
そこには、家族の歴史、言えなかった思い、役割の偏り、長年の遠慮や怒りが潜んでいることがあります。
相続で本当に難しいのは、手続きそのものよりも、その前段階にある人と人との合意形成であり、コミュニケーションです。
AIは、一般的な情報整理や書類作成の支援には役立ちます。しかし、誰が何に傷ついているのか、どこで話が止まっているのか、何を分ければ話が進みやすくなるのかを見立てるには、人と人との対話が必要です。
4. 相続登記義務化で、相談は「いつか」から「そろそろ」へ
2024年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。
不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があり、正当な理由なく申請を怠った場合には、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
この制度により、相続登記は「いつかやればいいもの」ではなくなりました。
特に、親や祖父母の代から名義変更がされていない不動産がある場合、相続人が増えていたり、戸籍の収集に時間がかかったり、話し合うべき人が多くなっていたりすることがあります。
私の実務感覚としても、相続登記義務化以降、「そろそろ何とかしなければ」と、長年そのままになっていた不動産について相談される方が増えやすい状況になっていると感じます。
ただし、ここでも大切なのは、まず状況を整理することです。
- 不動産の名義は誰になっているのか
- いつ相続が発生したのか
- 相続人は誰なのか
- 遺産分割協議は済んでいるのか
- 話し合いが止まっている理由は何か
- 法律上の問題と、家族間の感情の問題が混ざっていないか
こうしたことを一つずつ分けていくと、今すぐ動くべきことと、少し時間をかけて話し合うべきことが見えやすくなります。
5. AIと司法書士の役割分担
AI時代には、AIと人間の専門家を対立させて考えるよりも、それぞれの役割を分けて考えることが大切です。
| 領域 | AIが支援しやすいこと | 司法書士が担う役割 |
|---|---|---|
| 一般的な制度説明 | 相続登記、遺言、遺産分割などの基本的な仕組みをわかりやすく説明する。 | その説明が相談者の具体的な状況に当てはまるかを確認する。 |
| 必要書類の整理 | 一般的に必要となる戸籍、住民票、固定資産評価証明書などをリストアップする。 | 実際の相続関係に応じて、どこまで戸籍を遡る必要があるかを判断する。 |
| 長年放置された相続登記 | 一般的な流れや注意点を整理する。 | 数次相続や代襲相続を含め、現在の相続人を確認し、必要な手続きを組み立てる。 |
| 家族間の合意形成 | 話し合いの論点や選択肢を整理する。 | 家族それぞれの事情や感情に配慮しながら、話し合いを進めるための現実的な道筋を整理する。 |
| 実家の処分や今後の暮らし | 売却、維持、共有などの一般的な選択肢を示す。 | 法律上の整理だけでなく、相談者がこれからどう暮らしたいのかという人生の視点も含めて整理する。 |
事実、法律、財産、感情、家族関係が混ざり合った状態では問題が塊となって、大きく見えてしまいます。
けれど、それらを一つずつ分けてみることで、今できることが明確になることが多いのです。
AIが情報を整理する時代だからこそ、人間の専門家には、その情報を相談者の現実につなぎ直す力が求められているのだと思います。
6. AI時代における小高司法書士事務所の役割
AIが実務に浸透するこれからの時代、専門家の価値は「知識をたくさん持っていること」だけではなくなっていきます。
大切なのは、知識をその人の現実にどう当てはめるか。 そして、その人が安心して次の一歩を選べるように、どのように整理するかです。
小高司法書士事務所では、相続登記や遺言書作成といった法的手続きだけでなく、その手前にある不安や迷いを言葉にする時間も大切にしています。
- AIやネットで調べたけれど、自分の場合に当てはまるのかわからない
- 相続登記をしなければと思いながら、何から始めればよいかわからない
- 家族にどう話を切り出せばよいか悩んでいる
- 手続きの問題なのか、気持ちの問題なのか、自分でも整理できない
- 親のこと、実家のこと、自分のこれからの暮らしが一度に重なって苦しくなっている
こうしたとき、いきなり結論を出そうとしなくても大丈夫です。
まずは、今起きていることを整理する。 法律の問題、気持ちの問題、家族関係の問題、これからの人生の問題を分けてみる。
それだけでも、見えてくる景色が変わることがあります。
司法書士の仕事は、単に書類を作成するだけではなく、法律上必要な手続きと、そこに関わる人の事情や気持ちを整理する役割へと、少しずつ重心が移っているように感じます。
相続や遺言は、単なる財産処分の手続きではありません。
「親が何を大切にして生きてきたのか」 「自分はこれからどこで、誰と、どのように暮らしたいのか」 「家族との関係を、これからどう整えていきたいのか」
そうした、自分の人生に向き合う入口でもあります。
AIがどれだけ進化しても、人が自分の人生をどう受けとめ、どう選び直していくのかを、代わりに決めることはできません。
だからこそ、法律の手続きと気持ちの整理、その両方を大切にしながら、相談者の方が次の一歩を選べるように伴走していきたいと考えています。
よくある質問
Q1. AIで相続登記の書類を作れば、司法書士に依頼しなくても大丈夫ですか?
A1. 一般的な情報整理や書類のたたき台作成には、AIが役立つ場面があります。
ただし、相続人の確定、戸籍の読み取り、遺産分割協議の内容、不動産ごとの権利関係などは、個別事情によって確認が必要です。
AIの回答だけで進めるのではなく、必要に応じて司法書士に相談し、ご自身のケースに合っているかを確認することをおすすめします。
Q2. 相続登記義務化で、すぐに過料が科されますか?
A2. 相続登記をしないからといって、直ちに過料が科されるわけではありません。
ただし、正当な理由なく期限内に申請しない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
期限や必要な対応は、相続が発生した時期、不動産の状況、遺産分割協議の有無などによって変わります。早めに状況を整理しておくことが大切です。
Q3. AI時代に司法書士へ相談する意味は何ですか?
A3. AIは、一般的な情報整理や書類作成の補助に役立ちます。
一方で、家族関係、過去の経緯、相続人同士の感情、今後の暮らし方まで含めて整理するには、人と人との対話が必要です。
司法書士は、法律上の手続きと現実の事情をつなぎ、相談者が安心して次の一歩を選べるように支える役割を担います。
まとめ|AI時代だからこそ、相談の価値は「整理」にある
AIの進化によって、法律に関する一般的な情報や書類のたたき台は、これまでよりも簡単に手に入るようになっていきます。
それは、相談者にとって大きな助けになります。
けれど、相続や遺言、実家の名義変更、家族との話し合いには、情報だけでは整理しきれないことがあります。
法律の問題なのか。 気持ちの問題なのか。 家族関係の問題なのか。 これからの人生をどう選ぶかという問題なのか。
それらを分けて考えることで、次の一歩が見えやすくなります。
小高司法書士事務所では、相続登記や遺言書作成などの法的手続きに加え、その手前にある不安や迷いを整理することを大切にしています。
「手続きのことが気になるけれど、何から始めればいいかわからない」 「家族にどう切り出せばいいか悩んでいる」 「親のことも、自分のこれからのことも、一度整理したい」
そのようなときは、まずは今起きていることを言葉にするところから始めてみてください。
滋賀県大津市の小高司法書士事務所では、法律と気持ちの両面から、人生の節目にある方のご相談をお受けしています。




